画像を「保存する」ことが中心のプラットフォーム

Pinterest は、Web上の画像を自分のボードにピン留めして集めるサービスです。料理のレシピ、部屋のインテリア、着たい服、行きたい場所。発信ではなく、集めて保存することが利用の中心にあります。

創業は2010年、ベン・シルバーマン氏によるもので、初期は招待制のサービスとして始まりました。

面白いのは、SNSの疲れが語られるこの時代に、利用者が増え続けていることです。フォロワー数の競争も、意見のぶつかり合いもない。自分の「これから」——作りたい料理、変えたい部屋——を静かに貯める場所が、世界で6億人を超える人に使われています。

「今」を流すSNSの中で、「これから」を貯めるサービス

SNSの基本形は、タイムラインです。友人や有名人の「今」が流れ、リアクションとコメントで交流する。滞在時間を最大化し、そこに広告を差し込む。X も Instagram も TikTok も、形は違えどこの構造の上にあります。

Pinterest は、この構造から2つの点で外れています。

第一に、交流が中心にないことです。ピン留めは他人に見せるための投稿ではなく、自分のための保存です。フォロワー数を競う場でも、意見を戦わせる場でもありません。創業者シルバーマン氏は「人が好きなものに集える場所があればいいと強く思った」と語っています。

第二に、時間の向きが逆であることです。タイムライン型のSNSに流れるのは過去と現在——起きたこと、今していること——ですが、Pinterest のボードに貯まるのは未来です。作りたい料理、変えたい部屋、次に買う服。ユーザーが自分の「これから」を自分で分類して見せてくれる場所になっています。

この構造が、広告事業の質に直結しています。「これから買うもの」を探しに来ている人が月間6億人以上いる場所は、広告主にとって他にありません。利用者数は伸び続けており、CEO のビル・レディ氏も決算で利用者の記録更新に触れています。「これから買うもの」を探しに来ている人への広告は、割り込みではなく検索結果に近い性質を持ちます。規模は最大手SNSより小さいものの、伸び続けていること自体が、この構造の場所が選ばれ続けていることを示しています。

コレクションから始まった設計

シルバーマン氏の原点として本人が語っているのは、昆虫採集です。集めて、並べて、眺める。Pinterest の構想はこの経験にインスパイアされたものだと、2013年のインタビューで語られています。

もうひとつ本人の言葉として残っているのが、創業時の姿勢です。「自分の気持ちに正直になること」。新しい挑戦に不安を感じるのは自然だとしたうえで、「新しいものをつくりたかったし、人が好きなものに集える場所があればいいなぁと強く思った」。

この考えが製品のどこに現れているか。Pinterest の基本操作は「ピンする」——気に入ったものを自分のボードに留める——であり、これは昆虫採集の標本箱の構造そのものです。人に見せるための編集も、義理のリアクションも要らない。集めること自体が楽しいという行為を、そのままサービスの中心に置いています。

招待制で始めたという初期の選択も、規模より空気を優先した形として、この軸に沿っています。

「欲しいものが、まだ言葉になっていない」段階の検索

Pinterest が扱っているのは、言葉になる前の「欲しい」です。

検索エンジンは、欲しいものが言葉になった後に使えます。「北欧 ソファ おすすめ」と打てる人は、もう欲しいものが分かっている。しかし「なんとなく部屋を変えたい」段階では、打つ言葉がありません。画像を眺めて、ピンして、ボードが育っていくうちに、自分の好みの輪郭が見えてくる。Pinterest はこの具体化の過程を受け持ちます。

広告主にとっては、この過程こそが価値です。購入の意思が固まる前——ブランドの候補が決まる前——に接触できる場所は多くありません。タイムライン型SNSの広告が「関係ない時間への割り込み」になりがちなのに対し、ここでは広告も「まだ見ぬ選択肢の提示」として機能し得ます。広告収入が伸び続けていることは、この位置の広告価値が市場に認められていることを示します。

「もう聞きたくない」と言われるまで話し続けた構想

創業は2010年。シルバーマン氏が語る創業前夜には、具体的なエピソードが残っています。当時のガールフレンド(現在の妻)に構想を何度も話し続け、「もう、これ以上聞きたくない!」と言われたことが、決意のきっかけになった。

構想の根には前述の昆虫採集があり、「人が好きなものに集える場所」という一貫した言い方で本人が説明しています。2010年当時、SNSはタイムライン型の全盛に向かう時期で、「保存と収集」を中心に置く設計は主流から外れた選択でした。初期は招待制で、ゆっくり始まっています。

主流の形に寄せず、15年同じ構造で続けた

第1段(2010年〜):招待制の小さな出発。 2010年創業、招待制でのスタート。Webの画像をボードにピンするという基本形は、この時点で現在と同じです。

第2段(2010年代):構造を変えずに規模を拡大。 タイムライン型SNSが交流と拡散の機能を競う中、Pinterest は保存と発見の構造を維持したまま、ユーザーを増やしていきます。

第3段(2020年代):広告事業としての確立。 利用者は月間6億人を超え、広告収入も伸び続けています。CEO は創業者から交代し、現在はビル・レディ氏が率いています。

外部要因も並べておきます。ユーザー増の背景には、対立や炎上が可視化されるタイムライン型SNSへの疲れが語られる時代の空気があります。また、広告市場全体がターゲティング規制で変化する中、「ユーザーが自分で関心を分類してくれる」構造は、行動追跡に頼らない広告の受け皿として相対的に有利になっています。

構造の違いが、そのまま広告の質の違いになった

なぜ Pinterest が広告で稼げる場所になれたのかを、考えていきます。

第一に、集まる人の状態が広告と噛み合っていたこと。「これから何かをしたい人」が「自分の関心を分類しながら」使う場所は、広告にとって最良の文脈です。Pinterest の広告事業は、利用者の規模ではなく、この文脈の質で説明されます。

第二に、主流の構造に寄せなかったこと。交流機能で他のSNSと競っていれば、規模の勝負に飲まれていたはずです。保存と発見という別の構造を15年維持したことが、「SNSの代替」ではなく「SNSと併用される別の場所」という位置を作りました。

第三に、時代の風向きの変化。SNS疲れ、追跡型広告への規制と、2020年代の環境変化はいずれも Pinterest の構造に有利な方向でした。これは同社の設計の先見性というより、変わらずにいたものに風が追いついた形です。