文章を書いて、値段を付けて、売れる場所
note は、note株式会社が運営するメディアプラットフォームです。書いた文章・画像・音声などに、クリエイターが自由に値づけをして販売できます。
サービスの開始は2014年。出版社出身の編集者・加藤貞顕氏が始めたこの場所は、「文章にお金を払う」という、当時はまだ珍しかった行為を日本で日常にしてきました。いまでは、書くことだけで生計を立てる人がこの上に何人も立っています。
掲げられているミッションは「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」です。
広告収入ではなく、読者からの直接課金で回っている
個人がネットで文章から収入を得る方法は、長らく広告が中心でした。ブログにアドセンスを貼り、PVを集め、クリック単価を積み上げる。書き手の収入は広告主から来るため、稼ぐには読まれる回数を最大化する必要があり、記事は検索とSNSで拡散されやすい形へ寄っていきます。これが一般的な形です。
note の売上は、構造が逆です。読者がクリエイターに直接支払う。公式記事も、初期のインターネットビジネスは広告モデルが主流でほとんどのコンテンツが無料公開だったこと、そこから課金型が普及していった経緯を自ら整理しています。
定着の度合いは、公式が公開している数字から読めます。noteでコンテンツを購入したことのある人は累計350万人。売上の上位層には、書くことを本業にできる水準の人たちが育っています。「文章にお金を払う」という行為そのものが、この10年で習慣になりました。
個別の事例も公式記事に載っています。経済ジャーナリストの後藤達也氏は月額500円からのメンバーシップに3万人以上が参加。漫画家のかっぴー氏は『左ききのエレン』全話が読めるメンバーシップを、アプリマーケティング研究所は広告モデルから定期購読への切り替えを、それぞれ成立させています。
もうひとつの数字が、書籍化284作品(2024年3月末時点)です。ネット発のヒット作は、2ちゃんねる発の『電車男』やブログ発の『鬼嫁日記』のように以前から存在しましたが、note は出版社やテレビ局と連携した発掘の取り組みを仕組みとして持ち、コンテンツが外の市場へ出ていく経路を常設しています。
個人が作って個人が買う経済圏は、公式記事が引く市場調査でも、もはやニッチとは言えない規模に育っています。
「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」
note株式会社のミッションは「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」です。
この一文には動詞が2つあります。「はじめ」と「続けられる」。前半だけなら、投稿のハードルを下げる話で済みます。後半の「続けられる」が、収益の話に接続します。続けるには、時間を割く理由——収入——が要る。クリエイターが自由に値づけして販売できる仕組みは、この「続けられる」の実装です。
概念が実物のどこに現れているか。公式記事が実例として挙げるのは、月額制メンバーシップの後藤達也氏、全話読み放題型のかっぴー氏、広告から定期購読へ切り替えたアプリマーケティング研究所と、いずれも単発の販売ではなく継続課金の事例です。「はじめる」の実例ではなく「続ける」の実例が並んでいます。
書籍化の取り組みも同じ軸にあります。プラットフォーム内で完結させず、出版・映像といった外部市場への出口を作ることは、創作を職業として続けるための経路の整備です。
PVを追わなくても、書き続けられる
直接課金の場は、広告モデルが書き手に課していた制約を取り払いました。
広告収入は閲覧数に比例するため、収入を増やすには読者の数を最大化するしかありません。専門的な内容、狭い読者に深く刺さる内容は、構造的に不利でした。直接課金なら、話が変わります。月額500円の読者が支える後藤氏の形も、熱心な読者が支えるかっぴー氏の形も、読者の総数ではなく、支払う読者の数で成立しています。
書き手にとっては、収入源の分散という意味もあります。公式記事には、2018年ごろの働き方改革以降にセルフブランディング意識の高まりとともに投稿数が急増し、2020年のコロナ禍を境にさらに増えた、という経緯が書かれています。
出版社の外に、書き手の売り場を作る順序
会社の沿革には、note より前の一手が記録されています。2012年の「cakes」です。cakes はプロの書き手のコンテンツを配信するサイトで、その2年後の2014年に、誰でも書いて売れる note が始まりました。
創業者の加藤貞顕氏は出版社出身の編集者で、ピースオブケイク設立は2011年12月。紙の出版から、ネット上の配信サイト、そして開かれたプラットフォームへという順序で事業が進んでいます。
外部環境も公式記事に整理されています。2014年は「好きなことで生きていく」という YouTube のCMが話題になり、クリエイターエコノミーと呼ばれる市場が生まれた年でした。note のサービス開始直後の2014年6月には dマガジンが生まれ、2015年には Netflix と Amazon Prime Video が日本に上陸。コンテンツの対価を視聴者・読者が払う課金型が普及していきます。
プロ向け配信から、開かれた売り場へ
時系列で追うと、3つの段階があります。
第1段(2011〜2012年):プロの配信から。 ピースオブケイク設立、cakes 開始。書き手はプロ、読者は購読者という、雑誌に近い形です。
第2段(2014年):誰でも売れる場へ。 note 開始。値づけの主体がプラットフォームからクリエイター個人に移りました。cakes が「編集部が選んだ書き手を読者が購読する」形だったのに対し、note は「書き手が自分で出品して値段を決める」形です。売り場の設計が、百貨店からマーケットプレイスに変わっています。
第3段(2018年〜):社会の変化が投稿を押し上げた。 公式記事によれば、2018年ごろの働き方改革を境にキャリア観が多様化し、投稿数が急増。2020年のコロナ禍でオンライン中心の生活が主流になり、さらに増加。2020年に社名を note株式会社へ変更し、2022年に上場。記事は累計4,344万件(2024年3月末時点)に達しています。
外部要因の大きさは、公式記事自身が認めるところです。ネットコンテンツ市場も個人間ECの市場も、この10年で大きく拡大しました。note の成長は、課金型コンテンツ市場全体の拡大の中で起きています。
課金の習慣が社会側で育った10年と重なった
note が始まった2014年、コンテンツに直接お金を払う習慣はまだ一般的ではありませんでした。その後の10年で、dマガジン・Netflix・Amazon Prime Video と課金型サービスが日本の生活に浸透し、フリマアプリの普及で個人からモノを買う行為も日常になりました。「個人が作ったものに、個人が払う」という行動の心理的ハードルが、社会の側で下がっていった10年です。
その時間の中で note 側に確認できるのは、書き手の選択肢を増やし続けたことです。単発販売、月額メンバーシップ、定期購読と、公式記事の事例には複数の課金形態が並びます。広告モデルから定期購読へ切り替えたアプリマーケティング研究所の事例は、他のモデルからの乗り換え先として機能したことを示しています。
書籍化284作品という出口の整備も、書き手がこの場所に留まる理由に数えられます。プラットフォームの中で稼げるだけでなく、外の市場へ出るきっかけにもなります。